応用力学委員会の概要
発足の経緯
応用力学委員会は,1994(平成6)年9月,土木工学の力学分野に共通の基盤を整え,関連諸分野との研究連携のもとに,理論的解析的力学,実験的力学並びに計算力学の発展に寄与することを目的として発足した.初代委員長は,本委員会の前身とされる構造工学委員会応用固体力学小委員会の委員長を務め,当時京都大学教授の小林昭一氏である.
応用力学委員会の設立は,もともと構造工学委員会において力学を基調とする研究小委員会を作ろうとする動きのなかで,当時東北大学教授の倉西茂氏を委員長として1985(昭和60)年に発足した構造力学小委員会(1985~1989年)に端を発している.この研究小委員会は,非線形解析分科会(主査:吉田裕),離散化分科会(主査:西岡隆),構成則分科会(園田恵一郎),破壊力学分科会(主査:三木千寿)の4つの分科会活動を中心として,各々のテーマでの討論会やフォーラム等の活動を行っていた.そして,破壊力学分科会を引き継ぐ形で非破壊評価小委員会(委員長:岸野佑次,1989~1992)が発足し,シンポジウムの開催,土木学会論文集への委員会報告掲載などの活動を行った.その後これらの活動は,応用固体力学小委員会(1992年6月~1994年7月)に引き継がれ,土木学会理事会において応用力学に特化した常置調査・研究小委員会の必要性が認められ,前述のように応用力学委員会が発足する運びとなった.またその間,土木学会全国大会の終了後に自発的な活動としてM&M研究会(当時の構造・材料・地盤・コンクリートの若手研究者が一堂に会してトピックスを議論し合ったもので,Mechanics and Materials の略)を開催するなど,土木工学における応用力学研究の重要性,必要性を主張する多くの研究者の個別の活動とその成果が,応用力学委員会設立の原動力になったことも付け加えておく.
応用力学委員会が土木学会の研究・調査委員会として認められた主な理由として,提示されたその設立趣旨における二つの特徴が高く評価されたことを特筆すべきである.一つは,部門ごとの細分化が進む中で,応用力学という横糸で全部門を横断した委員会である点,もう一つは,学会活動に携わる人材が集中するなか,各地区に「応用力学フォーラム」を開催し多くの人材に学会活動の機会を切り開いた点である.特に,部門横断というユニークな形式は,流体部門の研究者が参加した乱流小委員会や,地盤工学や計画部門の研究者が一翼を担った逆問題小委員会として実現した.
応用力学委員会の発足と同時に,以下の研究小委員会も設立され,また各地区(関西・北海道・東北・九州・中国・関東)では応用力学フォーラムが企画されテーマごとの活動が開始された.
- 地殻工学小委員会(委員長:東原紘道,委員及び幹事21名)
- 乱流小委員会(委員長:禰津家久,委員及び幹事35名)
- 逆問題小委員会(委員長:北原道弘,委員及びオブザーバ27名)
- 非線形力学小委員会(委員長:矢富盟祥,委員及び幹事50名)
現在までに,それぞれ委員長,幹事,委員の交代や統廃合を経て,また新規小委員会も設置されているが,基本的には設立当初の活動形態を継承しており,今後もしばらくの間は持続する予定である.
委員会活動
応用力学委員会は,委員長以下,幹事長,副幹事長それぞれ1名,若干名の幹事と応用力学フォーラムを主催する地区幹事を幹事団としている.委員長と正副幹事長の任期は原則として2年であり,幹事および地区幹事の任免は随時行ってきた.これに応用力学論文集における各部門主査(現在では副査も含む)を加えて幹事会を構成しており,これは応用力学論文集編集小委員会も兼務している.研究・教育に関しては部門毎の縦割りがちな活動が主である現状に対して,応用力学という結びつきを使って横断的な情報交換の場を作ることが応用力学委員会の最大の特徴の一つである.また,小委員会による特定のテーマの研究活動とともに,支部単位の応用力学フォーラムを開催することで,中央の学会活動に参加することが少なかった人が積極的に関われる組織を提供することもこの委員会の重要な特徴である.
応用力学委員会は,部門を横断した組織のため,各部門のバランスを取ることに配慮しつつ,5年から10年程度の長期ビジョンを立て,それに基づき活動の方針を決定することを原則としてきた.特に,運営グループ(委員長,幹事長,幹事,地区幹事)は,構造・土・水・コンクリートの4部門から最低1名を代表する人を含むよう組織し,その特徴を失わないよう配慮して人選がなされてきた.また,第1期として1994(平成6)年度より 5 年間は,応用力学フォーラムという部門を横断する新しい組織が地区レベルで認識されることを目標に設定し,これを運営するグループや参加するグループを地区単位で整備し,定常的に運営されるよう体制を整えてきた.1998(平成10)年には,応用力学委員会の中心的な主催行事としての「応用力学シンポジウム」の開催と「応用力学論文集」の発刊を開始し,委員会活動はそれらの運営と編集を活動の中心に据えることでさらに活性化した.第2期(平成11年度より15年度),第3期(平成16年度より20年度),第4期(平成21年度~)も,引き続きこれらの運営と発刊を中心として,研究小委員会活動と地区フォーラムを通じて分野をまたがる応用力学研究の敷衍と発展に貢献してきた. この間に,第3期(平成16年度より20年度)からは,日本学術会議メカニクス・構造研究連絡委員会主催の理論応用力学講演会の運営を応用力学委員会が土木学会の代表として行っている.なお,2005(平成17)年と2009(平成21年)度は,主幹事学会として主催した.また,第4期からは,応用力学シンポジウムとは別の講演会(応用力学講演会)を毎年開催している.
小委員会等の活動
応用力学委員会における調査・研究小委員会の設置は幹事会の承認を得ることになっており,原則として小委員長と公募による委員から構成されるよう組織している.設置期間に制限は設けてはいないが,小委員長の任期は原則的には4年を限度としている. 研究調査の成果は活動を行った委員個人に帰属することを前提とした上で,成果を論文集や学会誌に発表し土木学会会員に還元するとともに,応用力学フォーラムの場を借りて成果の発表を行うことも奨励してきた.ただし,応用力学論文集編集小委員会は,応用力学シンポジウムの実質的な実行委員会を兼ねることになっており,幹事会とほど同一メンバーで構成され,応用力学委員会の委員長が編集委員長を兼ねている.
編集出版物
1998(平成10)年度から毎年1回開催している応用力学シンポジウムに合わせて,応用力学論文集を計12巻発刊してきた.この論文集は,部門制とをとっており,部門ごとに1名の主査と若干名の副査によって投稿論文の校閲を担当する.主査と副査は,3名の査読委員を選定し,そのすべての査読結果に基づいて最終的な掲載可否の判断を下すことに成っている.査読委員による査読結果のみから判定するのではなく,それらをふまえて最終的には主査および副査が採否について責任を負うことになっている.応用力学論文集の発刊に合わせて応用力学シンポジウムを開催すること,そして掲載された論文についてはそのシンポジウムにおいて発表を義務づけていることから,査読は1回のみに限定しており,査読委員から頂いた修正依頼や掲載可とするための条件などについても主催および副査がその履行を確認して最終的な判定を行う.このような査読システムによって,掲載論文の質と速報性を保っている点が特徴として挙げられる.さらに,応用力学論文集は,工学的な意味で有用性や実用性が陽に主張できなくても学術的価値が高いと認められる研究に対しても門戸を開いており,特に斬新なアイディアを具体化した萌芽的研究を奨励する意味でその位置づけは明確である.なお,2011(平成23)年度から改編される土木学会論文集では,応用力学委員会は土木学会論文集の1分冊(全部で17分冊)として土木学会論文集(応用力学)を編集・発行することになった.新しい土木学会論文集(応用力学)では,従来の土木学会論文集に相当するものが通常号(当面年1回の発行)として,応用力学論文集が特集号として発行されることになる.通常号の編集委員は,委員長,幹事長,および応用力学論文集の部門主査の中から数名で構成され,査読要領はこれまでの土木学会論文集と同様に行う.この動きに迅速に対応するため,特集号に相当する応用力学論文集も2010(平成22)年度から,再査読制度の導入を行い土木学会論文集と同等の質の確保を行っている.
その他,2000年4月には逆問題小委員会(委員長:村上章)が中心となって「土木工学における逆問題入門(土木学会編)」を発刊している.また,2008年11月には計算力学小委員会(前委員長:樫山和男,委員長:寺田賢二郎)が中心となって「計算力学の常識-いまさら聞けない計算力学の常識-」を発刊している.特に,「計算力学の常識」は,計算力学分野のバイブル的書として,土木学会以外でも広く認知されている.2020年3月には,その続編であり,例題等を中心とした「いまさら聞けない計算力学の定石」が,計算力学小委員会(前委員長:牛島省,委員長:岡澤重信)から発刊されている.
委員会の主催行事
- 応用力学シンポジウム
1998(平成10)年度から毎年1回「応用力学シンポジウム」を開催している. - 応用力学講演会
2010(平成22)年度から毎年1回「応用力学講演会」を東京にて開催している. - 応用力学フォーラム
地区単位で,年に数回,研究をも含めた応用力学に関するさまざまなトピックで開催することを原則とする.フォーラムの運営は,幹事となった委員を中心に地区内の構造・土・水・コンクリートの部門を横断したグループによることを原則として,部門のバランスを考えたフォーラムのトピックスを選定して提供している. - 各小委員会の主催行事
各小委員会主催のフォーラムや講演会,講習会を実施している.
学会内他委員会および外部組織との関係
応用力学委員会は,日本学術会議メカニクス・構造研究連絡委員会主催の「理論応用力学講演会」の主幹事学会を務める際には,土木学会における主担当組織になるべく体制を整えてきた.そして,2005(平成17)年からは,正式に応用力学委員会が運営支援を行うようになった.また,パネルディスカッションの企画・開催やオーガナイズとセッションのテーマ提案などを通じてその運営にも協力している.
また,2000(平成12)年8月号(Vol.85)の土木学会誌における特集「応用力学の深淵」および2003(平成15)年8月号(Vol.88)における特集「計算力学の最前線」の編集にあたっては,土木学会誌編集委員会に協力して応用力学の紹介と普及に努めている.
将来展望
応用力学委員会は,5年から10年程度の長期ビジョンに基づいて活動してきたが,2014(平成26)年度で発足20年を迎える.発足以来,各地区における応用力学フォーラムの開催,各研究小委員会の設置と活発な活動,応用力学シンポジウムの開催と応用力学論文集の発刊,応用力学講演会の開催などを行ってきたが,次の5年ないし10年の長期ビジョンを提示する時期にさしかかっている.本委員会発足に関わり,活動の中心となってきた委員が次第に第一線での委員会活動を退きはじめ,若手の応用力学研究者が委員に加わり,幹事を努めるようになり,着実に世代交代が進んでいる.今後は,如何にして応用力学委員会の発足当時の理念を継承し,新しい世代のアイディアと活力を活動に反映させていくかが課題である.
また,本委員会のこれまでの活動により,「応用力学」は広く認知されるようになったものの,土木工学おける既存の縦割り型の学問領域を横断する分野としての意義が浸透したとは言い難い.したがって,これまで以上に土木工学における既往の学問領域を横糸でつなぐ応用力学の特徴をアピールし,その普及に努めることが肝要である.さらに,応用力学は力学をツールとした多彩な切り口で様々な工学問題の解決を図るための個別の構成要素を提供しうる学問であることを踏まえ,応用力学委員会の活動範囲を固定化することなく,時代や社会情勢を鑑みて多種多様な分野を取り込んでいく努力も必要である.したがって,今後の5年ないし10年は,これまでの活動内容に加えて,他分野との交流を一層深めることにより応用力学の学問的な幅を広げるための活動を企画していく予定である.そして,学生および学会員にも応用力学委員会の活動を広く知ってもらい,「応用力学」を軸足とする若手研究者の育成を支援する活動も行っていく予定である.
歴任委員長
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1994 – 1996
小林 昭一
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1996 – 1998
三木 千尋
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1998 – 2000
東原 紘道
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2000 – 2002
岩熊 哲夫
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2002 – 2004
矢富 盟祥
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2004 – 2006
岸野 佑次
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2006 – 2008
田村 武
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2008 – 2010
樫山 和男
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2010 – 2012
廣瀬 壮一
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2012 – 2014
堀 宗朗
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2014 – 2016
寺田 賢二郎
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2016 – 2018
泉 典洋
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2018 – 2020
牛島 省
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2020 – 2022
渦岡 良介
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2022 – 2024
阿部 和久
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2024 – 2026
本田 利器
歴任幹事長
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1994 – 1996
堀 宗朗
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1996 – 1998
廣瀬 壮一
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1998 – 2001
山口 栄輝
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2001 – 2003
樫山 和男
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2003 – 2005
寺田 賢二郎
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2005 – 2007
泉 典洋
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2007 – 2009
松本 高志
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2009 – 2011
小国 健二
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2011 – 2013
前田 健一
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2013 – 2015
浅井 光輝
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2015 – 2017
紅露 一寛
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2017 – 2019
佐藤 太
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2019 – 2021
溝口 敦子
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2021 – 2023
加藤 準治
-
2023 – 2025
森口 周二
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